眠れない人のための「茨の海(鬼束ちひろ)」徹底解説。~今夜もまた私は、夜に逃げるの。~

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こんにちは、犬飼です。

今日も音楽解析をやっていきます。

音楽解析というのは、音楽をもう一度向き合うことです。

もう一度音楽と正面から向き合う、それが音楽解析です。

正面から向き合うことで、音楽の新しい一面を見つける。

正面から向き合うことで、音楽の気づけなかった一面を見つける。

 

音楽を聴いているときの、自分の心の移り変わり様が好きです。

音楽を聴いていると、自分の心が彩(いろど)られていくのを感じます。

音楽を聴くと、自分の心が温かくなります。

何故音楽を聴くとこのように自分の心に変化が起きるのか。

それを解明していくのが、このブログでやっている音楽解析です。

音楽を聴いて何を自分は感じているのか、そこを明確にすることで、音楽をよりよく理解しようとしています。

 

今回解析するのは鬼束ちひろさんの茨の海です。

このブログで最初に解析したのが確か宇多田ヒカルさんで、次は鬼束ちひろさんだったと思います。

この2人の曲は僕は好きですね。

宇多田ヒカル鬼束ちひろセットで聴くと、またいいです。

どちらかというと宇多田さんは陽で鬼束さんは陰。

この陰と陽が絡み合って、自分の心がバランスよく保たれているようで、2人の曲は聴いていて楽しいです。

 

そんなこんなで解析していきたいと思います。

いつものようにYOUTUBEの再生時間に合わせて、その時間の音を聴いた時に、僕がどう感じたか、何を頭に思い浮かべたかを書いていきます。

みなさんは一度曲を聴いてから解析文を読むのもいいですし、再生時間に合わせて文章を読んでくださってもかまいません。

 

それでははじめます。

いつも音楽解析するのはある程度緊張するのですが、

鬼束ちひろさんの曲をやるときはあまり緊張しません。

だってすごく暖かい曲ですから。

 

 

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「再生時間0:00~0:01」

 

 

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イントロがはじまります。

すでに、というか、この曲を聴くのは結構久しぶりなんですけど、

それでもこの曲の雰囲気、感じを自分では覚えていて、少し自分の表情が揺らぎます。

やっぱ鬼束さんの曲、自分好きですわ。

基本鬼束さんの曲って、徹底的に”落ち”ますよね。徹底的に”潜り”ますよね。

なのですごい安心できるというか。

もちろん深く潜る分、聴いた後とかは結構疲れちゃいますけど、それでも聴きたくなる曲です。

自分が落ち込んだときとか、滅入っている時とか、狂いそうな時とか、

聴くとニヤニヤしてしまいます。

宇多田さんは世間に評価されてるけど、鬼束さんってあまりそうでもないですよね。

まあ、そこがまた、いいんだけど(笑)。

それではちゃんと解析していきます。

 

イントロがはじまっていきなり落とされるというか、振り払われるイメージを僕は音から感じます。

基本的に、”拒絶”な色。

子供が泣き叫ぶような暴れるような拒絶のイメージではなく、

諦めの拒絶。孤独の拒絶。湿ったい拒絶。

どうにもならない拒絶、どうにもしたくない拒絶。

諦め感。諦め色。やるせなさ。

いい感じの中二病(笑)とでも表現しましょうか。

世の中の色を一方的に決めつけてしまうような。

世界を1つの色に染めてしまうような。

それは少し、やはり子供じみてはいますね。

籠(こも)っている。自分の世界に逃げている。

ただ、それがいい。その子供じみさが、僕にはとても心地いい。

あの時の、中学の時のあの陰湿な日常って、戻りたくないけど、やっぱ僕は好きです。

そういう思いでも感じさせる、イントロの出だしの一瞬でした。

 

これからどこに旅立つのか。

これから何を見してくれるのか。

音楽のイントロは、いつもおいしい。

音楽のイントロは、いつも甘い匂いがする。

 

 

「再生時間0:01~0:06」

 

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まだ曲が始まって3秒ぐらいしか経っていないのに、ゾクゾクが止まらねえ。

でかい波が聴き手である僕らに迫ってきて、僕らは全身で大波を受ける。

身体がひっくり返される。

世界が反転する。

何が起こっているのか分からいまま、また大きな波がやってくる。

 

音楽におけるイントロの役目は、その曲における聴き手の立ち位置を決めること。

曲が開始してすぐに、僕ら聴き手は波に飲まれて、これまでの自分を捨てる。

現実世界の自分を捨てる。

大丈夫、音楽の世界の中では、聴き手は死なないから。

死なないけど、死ぬ体験は何度もする。

そう予感させる、イントロ。

 

僕らの気持ちなんて関係ない。

僕ら聴き手の心の準備なんて関係ない。

そんなものどうでもいい。

そんなもの無視して、大波が僕らを襲う。

苦しい、苦しい、苦しいよお。

苦しみながら、僕らは笑う。

まるでそれを、望んでいたかのように。

 

音楽というのは、鏡だ。

素晴らしい曲というのは、どれだけ聴き手の心を表現できるか。

つらい時は、つらさを分かってくれる音楽を求める。

楽しい時は、楽しさを表現してくれる音楽を求める。

 

この曲を聴く人はやはり、心が廃れている人。

廃れている人ほど、この曲はより素晴らしく、美しく感じられる。

 

なんで矛盾してるのだろう。

だがそこがいい。それが嬉しい。

 

 

「再生時間0:06~0:11」

 

 

 

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僕らは光を失っていく。

僕らは身体を失っていく。

まるで巨人に飲まれたみたいに、どこか静かな暗い空間にいる。

 

呆然と、呆然としている。

感情を無くして。感覚を無くして。

 

音楽ってまるで自分で作るVR体験。

VR機器がなくても、頭に浮かぶ。音楽の世界に自分が溶け込む。

 

暗い暗い静かな空間の中で、僕ら聴き手は徐々に冷静になっていく。

そろそろ音楽の世界に慣れだす。

周りを見れる、余裕が出てくる。

息を吸って、深呼吸深呼吸。

君はこれから、何色になっていく。

君はこれから、何色を求めてく。

 

抗(あらが)うことなんてもちろんしない。というかできない。

出来れば笑いたい。最後には、笑いたいな。

 

周りをよく見たら、蛍が光っている。

コオロギが鳴いている。カエルが鳴いている。

 

 

 

「再生時間0:12~0:22」

 

 

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目覚めることは一度、諦めよう。

戻ることは、一度諦めよう。

捧げよう捧げよう。

頭を下げよう。

出来るだけ自分に、加護がありますように。

 

改めて、自分の過去が消されていく。自分の過去が、浄化されていく。

歴史というのは、1本の糸。

糸を、切ろう。

切って、結末に向かおう。

 

そろそろ、魔王様がやってくるぞい。

 

 

「再生時間0:23~0:35」

 

 

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神格化とは、安易な手段。

そりゃあ誰でも、簡単にすがりたい。身近にすがりたい。

近くにありもしないものを、近くに置くこと、それが神格化。

絶対に届かないものを、届きそうな距離に置くこと、それが神格化。

神格化によって、たった一人は犠牲になる。たった一人が神への供え物になる。

 

みんなの日常を日常たらしめるため、一人を供える。

神などいない。神などいない。

 

確か以前鬼束さんの月光の解析をした時にも言ったと思うのだけれど、

彼女の声って、直接僕ら聴き手には攻めてこないんだよね。

矢印が直接「聴き手←鬼束」とは来ない。

すごく遠巻きに遠巻きに。

まるで彼女から煙を焚いているような、そんな歌声。

僕ら聴き手に攻めると言うよりも、焚いて焚いて、気づけば僕らの足元に白い煙が充満しているような。

攻めるというより、空気を出す。

下から下から、僕ら聴き手を包んでいく。

 

彼女の歌声は・・・何ていうのかな・・・、どっちかというと”固い”と僕は感じる。

固い・・・。固いというより、圧がある、という表現がいいのかな。

一声一声が、重いよね。重さがある。軽くはない。

すごく質量を含んだ声。物体的な声。

受け止めるだけでも結構ヘビー。

ただそれは確実に、僕らを厚く包んでくれる。

 

彼女の声は攻めの声というより、引き寄せてくるような声。

吸い寄せて、吸い寄せて。

彼女の下に、空気が流れていく、彼女の上に、上昇気流が出来ていく。

僕ら聴き手は吸い寄せられて、吸い寄せられて。

まるで彼女の養分になるように。

人であった自分を消していく。

食われるものとなっていく自分を感じる。

 

別にいいじゃないか。

自分にそれほど価値はないだろう?

欲望に飲まれ、欲望に汚され、それでも人のままでいたいだろうか。

音楽というのは、”私”を探す物語。

音楽というのは、”私”を探し出す物語。

一度”私”を吐いてみよう。一度”私”を脱いでみよう。

一度食われて。一度消えて。

それが音楽の中では、可能だから。

音楽の中では”私”は何度でも死ねる。

 

揺れて揺れて、心は揺れて。

寄せて寄せて、胸は寄せて。

 

 

 

「再生時間0:36~0:47」

 

 

 

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神様は不平等。

均等には与えない。

それがバランスというなら、それはあまりに残酷。

不平等な世界で、感動とか、感謝とか。

満たされた人は、より満たされたいと願う。

迷惑が迷惑を呼ぶ。

元の鞘に収まっていく。

 

パターン化された感情を。

パターン化された経験を。

 

君の笑顔は見たくない。

僕が必要ないから。

君を今日も落としたい。

すがる君を、今日も上から見下ろしていたい。

 

鬼束さんの歌声が、至極ワンパターンに聴こえてくる。

繰り返し繰り返し、聴き手に入っていく。

どんどんと、だんだんと、聴き手に侵食していく。

僕ら聴き手の思考はシンプルに。

僕ら聴き手の思考は均一化されていく。

個性はいらない。

従おう、従おう。まるで朝の礼拝。

自分を消して、彼女の出す液体に浸かろう。

みんな横になって、身体をあずけよう。

 

気持ちよさと気持ち悪さは紙一重

誰かと一緒になることはそこにどちらも含む。

一人ではどちらも中途半端。

一緒に気持ちよくなろう。一緒に気持ち悪くなろう。

 

 

 

「再生時間0:48~1:03」

 

 

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人の”手”っておもしろいよね。

人の手って、その人の情報が、たくさん詰まっている。

好きな人の手を一瞬触れるだけで、やれやれ、僕は射精する。

あの娘の手を舐めたいンゴ。

 

人の手はまるで、その人の頭脳。

あの娘の手に触れただけで、まるで彼女のことすべてが理解できた気がして。

だって手に触れただけで、こんなに電気が走るもの。

手からすべてを感じ取れたような気がして。

あの娘の脳は頭に守られているけど、この手は、こんなにも無防備。

あの娘の手を侵したい。あの娘の手を犯したい。

 

そろそろ聴き手は歌い手の声をだいぶ聴いて、歌い手の声をだいぶ吸収して、

胸の中が、この曲の作り出してきた空気で満たされてきた。

そろそろ、安息の地を離れよう。

ここにいつまでもいてはいけない。

安息の地は、いつまでも安息の地ではない。

ここはこわい生き物も住んでるから。

彼らが起きる前に、ここは去ろう。

さもないと足元に散らばっている者たちと、同じようになってしまう。

ここで眠ってはダメだ。

ここは、君がいるべき場所じゃない。

君は、君がいるべき場所を、思い出すべきだ。

まぶたが閉じる前に、ここを出よう。さあ。

 

 

「再生時間1:04~1:03」

 

 

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この曲の中で、僕らは何を得たか。

この曲の中で、僕らは何を見たか。

 

皆それぞれ、それぞれに見た感じたものを抱いて、地上に戻る。

現実世界に戻っていく。

 

夢かうつつか。うつつか夢か。

ぼーっとして、ぼーっとして。

普段見えないものを見て。普段隠れている物を口に入れて。

 

裁かれたことは覚えていない。

消された記憶は思い出せない。

 

思い出すな、思い出すな。

その滑らかな髪の君は。

その美しい瞳の君は。

神に穢(けが)されて、君は強くなったんだ。

そう思い込んで、生きて欲しい。

どうか、君のままで。偽りの、君のままで。

 

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茨の海

鬼束ちひろ

 

眠れない人のための「茨の海(鬼束ちひろ)」徹底解説。

~今夜もまた私は、夜に逃げるの。~

 

終わり

 

 

後書き。

やっぱ鬼束さんの曲っておもしろくて好きです。

感じるものが他の曲では感じらないものが多くて、勉強になります。

味わい深い曲です。

ごちそうさまでした。

それでは終わりです。

おつかれさまでした<(_ _)>。